仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
社長はテーブルの上でトントンと書類を揃えると、八の字に眉を下げる。

「息子と何かあったんでしょう? ごめんなさいね」

「あ、いえ、そんな……謝られるようなことは……」

小野寺さんからの告白はちょっと想定外だったものの、キスは必要なシーンだったし、社長から謝られるようなことも、小野寺さんから謝られるようなことも何もない。

恋心が厄介なことは、私が一番よく知っている。

私はきっと、彼を傷つけるようなことを、知らぬうちに沢山してしまっていたのだろう。

だから小野寺さんに謝るのは、私の方だ。

しかし、ここでまた『ごめんなさい』と伝言を頼むのは、とても失礼な気がした。

「“ありがとうございました。大変お世話になりました”と、お伝えください」

「ええ。必ず伝えておくわ」

社長は慈愛に満ちた母の顔で、優しく微笑んだ。

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