愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
図らずもノロケになってしまった。
気まずくて唇をつぐむ俺の目の前で、ふぁ~と日向がにやけ、兼広さんがひゅうと古臭く口笛を吹いた。ちなみに兼広さんはヤンチャしてそうな50代男性だが、愛妻家で有名だ。趣味はサーフィン、奥さんは海で捕まえたそうだ。

「ほらほら、早く帰ってあげな!ぎゅーってしてあげな!」

日向が片手でバシバシと俺を叩いて、もう片手を頬に当てて照れた素振りをしている。兼広さんも、うんうんと同意を示す。

「大事にしろよ。おまえみたいな朴念仁のところに嫁いできてくれたんだから、最大限幸せにしてやらなきゃいけないぞ」

俺はふたりと、さらにその周りでニヤけながら事の成り行きを見守っていた同僚たちに一礼して、大宝製薬第一開発室のオフィスを出た。


大井町の駅からりんかい線で東雲まで。駅は豊洲が最寄りだが、東雲からも遠くはないので歩くことにしている。

製薬会社の開発室に努めて6年になる。
大学の薬学部で学び、尊敬する教授を追って別の大学院に転学し、現在の職についた。
周りは研究職とひとくくりにするが、実際の俺の仕事は開発という部門になる。実験よりも臨床試験を企画しモニタリングしデータ化するのが仕事だ。ピペットを持ち、マウスを使い、細菌を培養し毒性を調べたりする研究職も考えたが、どうやら自分は体系的に物事を捉えるのが好きなようだ。同じ研究の分野でも、薬の効果をまとめ、分析する方が性に合っている。

なので、今の仕事は大変充実しているし、満足している。
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