ピノ・ブラン -苦酸っぱい恋の終わり-
今の状況。

それを説明するには、時間は20分程前にさかのぼる。


そこそこ忙しそうな携帯電話が、一際忙しなく着信を知らせていた。

音を消していても、ポケットのそれが振動する効きなれた音は、心地よい音楽の流れるバーではしっかりと耳に届いた。


液晶を確認すると、なんの断りもなく席を立つ。

彼女だ。


早ければ数分と数えずに戻ってきて店を出ることもあるけれど、大抵は10分ほど問答してから面倒くさそうにチェックを済ませることがほとんどだ。


それが今日は、戻ってくるや否やワインを飲み干し、次を注文したのだ。


「私ももう一杯」


注文を取りに来たのは見知った若いバーテンダーで、にこやかにワイングラスを持ち上げて見せると人懐こい笑顔を向けてくれた。

勿論、若いといっても店内比較で、私よりは片手以上に年上なのだけれど。



「来週の土曜の出版記念の奴。お前行くか?」

「教授の?門下生じゃないけど、招待状は送ってもらってる。」


学会の話題は、私側から振れる唯一の話題であり彼との共通点だ。


「あれ、教授苦手じゃなかった?行くの?」


色気なんかあったもんじゃないけど、それでも、
唯一で、最強の武器。


だってこの話は、彼女は専門外だということはしっかりと知っている。

だからこそ、手としてはこれ以上はない、はずだった。


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