色眼鏡
声も聞こえない、男性は遠ざかる。


なぜだか焦る気持ちが湧いて来た。


このまま男性の言葉を聞けないと、大変なことになるような気がした。


「もっと大きな声で言ってください!」


随分と距離が離れてしまった男性へ向けて、あたしはそう叫んだ。


男性は変わらない笑顔をあたしへ向けて口を開いた。


あたしは息もころしてその声を聞きとろうとする。


「フサエ」


「えっ?」


そう聞き返した次の瞬間、あたしは現実世界に引き戻されていた。


ハッと息を飲んで飛び起き自分の心臓が早鐘のように打っていることに気が付いた。
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