沈黙する記憶
だから本当は制服で行動したかったのだけれど、夏男のお母さんに不振がられるかもしえないと考えて私服を選んだ。


「夏男、おはよう」


できるだけ杏の声に似せてそう声をかける。


夏男は少し驚いたように目を見開いたけれど、昨日のように頭を抱えてうずくまるような事はなかった。


「千奈……その服……」


歩きながら夏男がそう言ってきて、あたしは首をかしげた。


「この服がどうかしたの?」


「……いや、なんでもない」


左右に首をふる夏男。


あたしは夏男と並んで歩きながら、必死に杏と交わした会話を思い出していた。
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