沈黙する記憶
☆☆☆

あたしの家から杏の家まで自転車で15分ほどの距離だった。


何度か行った事があるのでその場所はちゃんと覚えていた。


いきなり家に押しかけたら迷惑になるかもしれないと思ったが、杏のお母さんもきっと心配しているだろうと思い、合流することにしたのだ。


大急ぎで自転車をこいで来たため、杏の家に着いた時には背中に汗が流れていた。


駐車場の端に自転車をとめ、チャイムを鳴らす。


すると中からバタバタと足音が聞こえてきて、勢いよく玄関が開かれた。


「杏!?」


そう聞きながら出て来た杏のお母さんと目が合い、あたしは泣きそうになった。


あたしが電話をしてから何度も杏に電話をかけていたのだろう、手にはスマホが握りしめられている。


「おばさんごめんなさい、あたしが変な事言ったから……」


「いいえいいのよ。あの子ってば全然電話に出ないんだから」


呆れたような声を出しながらも、その表情は不安で一杯に見えた。


「あたしこれから杏が行きそうな場所を探してみるつもりです」
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