沈黙する記憶
☆☆☆

家に帰ってから何度も杏に電話をかけたが、杏が電話に出る事はなかった。


電波は通じているし電源も入った状態だ。


杏は電話に出られる状態にないのか、それともスマホの近くにいないのか。


メールの返事も来ていなくて、あたしは自分のベッドの上で肩を落とした。


杏とよく行く場所は徹底的に調べたつもりだ。


それでも、どこにもいなかった。


どこを探せばいいのか、あたしにももうわからないくらいだ。


頭を抱えそうになった時、部屋にノック音が響いた。


「千奈、杏ちゃんの事は心配だろうけど、お風呂に入ってきなさい」


「あ、そうだね……」


帰ってきてからずっと考え事をしていたから、もう12時近くになっている。


夕飯もまだ食べていない。


「あと、さっき杏ちゃんのお母さんから家に電話があったのよ」


「電話!?」


あたしはお母さんの言葉に目を輝かせた。


もしかしたら杏が家に戻ってきたのかもしれない。


何かの事情で電話やメールはできなかったけれど、何事もなく元気なのかもしれない。


「警察に捜索願いを出したって」


その言葉にあたしは期待は一瞬にして消えて行った。


捜索願い……。


杏はまだ帰ってきていないのだ。
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