沈黙する記憶
あたしの質問に夏男は空中に視線を泳がせて「ニュース番組だったかな? 動物園のパンダが逃げ出したっていう」と、答えた。


「それだけ?」


「他にも色々見たよ。でもテレビはずっとつけっぱなしだったから、見てるようで見てなくて、あまり覚えてないな」


夏男はまた首を傾げた。


「そう……」


あたしもテレビをつけっぱなしにして、見たり見なかったりすることはよくある。


だから夏男の言っている事を真っ向から否定はできなかった。


だけど、見ていたテレビ番組を言えないということは、その時間に夏男は家にいなかったかもしれないという事でもある。


動物園のパンダのニュースなら今朝もやっていたし、昨日見ていなかったとすれば……?


そこまで考えた時注文した料理が運ばれてきて、あたしは思考回路を一旦停止したのだった。
< 37 / 229 >

この作品をシェア

pagetop