沈黙する記憶
「なにそれ、行方不明ってこと?」


由花が驚いたように声を上げる。


「事件? 家出?」


続いてさやが聞く。


「わからない」


夏男はそう答えてうつむいた。


「杏はしっかり者だ。何かがあって、自分の意思でどこかへ行ったのかもしれない。相談すれば他の友人たちに迷惑がかかると思い、誰にも何も言わずに行動している。電話に出ないのは、まだ問題が解決していないからじゃないか?」


そう言ったのは裕斗だった。


杏が行方不明と聞いて驚いた表情はしているが、いつも通り穏やかな口調だ。


感情を表に出し過ぎるとみんなが不安になると言う事をちゃんと理解している様子だ。


「そうかもしれない。でも、念のために聞いておくけど、みんなの家に杏がいるってことはないよな?」


夏男の言葉に、みんなは顔を見回せて左右に首を振った。


誰の家にも杏はいないようだ。
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