沈黙する記憶
事件の犯人がいつまでも相手のスマホの電源を入れっぱなしにしておくだろうか?


警察が位置情報を確認すれば、杏の居場所が突き止められてしまう。


仮にスマホをどこかへ捨てていたとしても、スマホが見つかった時点で杏の居場所の手掛かりにもなる。


あたしは不可思議な事に首を傾げた。


裕斗もそこだけ引っかかるのか、首を傾げている。


「犯人は突発的に杏を誘拐した。だからスマホまで気がまわらなかった……」


裕斗は呟いた。


『誘拐』と言う言葉に背筋がゾクリと寒くなる。


杏のように可愛いと、家が裕福でなくても『誘拐』という可能性が出て来るんだ。


誘拐後、杏がどうなったのか……想像しそうになってあたしはすぐにその考えをかき消した。


「今は、杏の無事を祈りながら俺たちでできる事をするしかないな」


「そうだね……」


暗い公園の中、あたしと裕斗は杏の事を思いながら再び沈黙したのだった。
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