浮気の定理
そこからそう遠くないホテルの5階のbar。



それが彼と待ち合わせるいつもの場所。



中に入るとステンドグラスが映える幻想的な空間が広がる。



現実から離れた幻想の世界。



そこが私のお気に入りでもあった。



カウンターに座るとバーテンダーが注文を聞いてくる。



「いつもので」



そう答えると、彼はにこやかに微笑んで、かしこまりましたと少し高めの落ち着いた声で返事をした。



コトッと置かれたグラスには、季節のフルーツカクテルが色鮮やかに注がれている。



赤いビロードみたいな色は、苺なんだと容易に想像できた。
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