悪魔の運動会


私は、 バットを放り投げた。


数歩、後ずさり、踵を返してゴールに向かう。


戸田裕貴の頭をかち割るところだった。でも、たとえそうなったとしても、なんら後悔はない。


___殺さないで。


相原友子の切実な言葉だけが、耳を通り越して心を貫いた。


恐らく他の誰もが、私がこのまま殴り殺してしまうのを止めようとした。でも相原友子は__いつも周りのことを1番に考えている姿勢を崩さない、相原友子が本音を言ったんだ。


殺すな。生かしておいてくれと。


それはつまり__生贄にするためだ。


山寺正人が蜂に刺された時、私も含めてだが、みんな瀕死の山寺に投票しようとした。


いわば捨て駒。


相原は私のことを思って言ったんじゃない。


自分のことを1番に考えたからこそ、殺さずに生かしておいてくれと、そう言ったんだ。


敵チームだったが、私の目を覚ます特効薬でもあった。


この運動会は__本性を露呈する。


心の中に飼っている【悪魔】が目覚めるかのように。


私がゴールテープを切ると、紅組の面々が出迎えてくれた。


まるで私と、初対面のようだったが__。


「紅組の勝利」






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