悪魔の運動会


【安藤直人】


「早くしろよ」


旬がそう言った。


失格だと告げられた、旬が__。


ほぼ同時にゴールに駆け込んだ。どちらが勝っていても不思議じゃない、僅差だったろう。


失格者の名を呼ばれ、辛うじて立ち上がり、振り返ると旬は、あの時と同じ顔をしていた。


唯一、俺が勝ったあの時と同じ、どこか晴れやかで清々しく、負けたなんて嘘みたいな__。


「そんな顔するなよ」


きっと、俺の方が絶望に打ちひしがれた、情けない顔をしているんだろう。


気を抜けば、何かが溢れ出しそうだった。


とめどなく、溢れてきそうだった。


「勝っても負けても恨みっこなしって言ったろ?でも__お前が悲しんでくれるから、俺の悲しみは半分だ」


「旬__」


「直人、後、頼んだぞ」


グッと握り拳に力を入れた。


さっきからずっと、俺の胸に突き出されている拳。


早くしろと催促する。


別れの挨拶だ。


「きっとまたすぐ会える。って、恋人みたいなこと言わせんなよ」


「__約束だからな」


俺は痛いほど握りしめている拳を、胸に持ち上げる。


動物たちが、旬を連れて行こうと取り囲む。


「ああ、約束だ」


「約束だ」


俺は、旬の拳に、自分の拳を打ちつけた。


別れの__再び会うまでの約束を、拳と拳で交わしたんだ。


きっとまた会える。


きっと__。






< 299 / 453 >

この作品をシェア

pagetop