誓いのキスをもう一度
彼と出会ってキスをした
「もうちょっと寄り添って・・・そーそー。イイ感じー。やーっとカップルに見えてきたよー」

私たちをおだてるカメラマンの声とカメラのシャッター音が、スタジオ内に響く。
そして彼の息遣いが聞こえるのは、たぶん私だけだろう。
彼の規則正しい鼓動を背中に感じているのは、絶対に私だけだ。

そう。私たちは今、恋人同士という「設定」の元に、撮影をしている。
私たちはモデルだ。これは仕事。

だから俊朗太(としろうた)・・さんが、私を背後から抱きすくめたのも、恋人同士っぽく見せる演出。
いちいちドキドキしてる場合じゃない。
でも・・久しぶりに他人――男の人――から抱きしめられたせいか、ちょっとくらいドキドキしてしまうのはしょうがないよねと、自分で自分を正当化した。
母の介護を中心に生活している今は、恋愛なんてしてる時間ないし。

それよりトキメキっていうのかな、頬が高揚しちゃうような感覚を味わったのは、本当に久しぶり過ぎて、自分にもまだ「女」の部分が残っていたことに、少しばかり驚いてしまった。

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