秘密の会議は土曜日に
「いえ、店員さん曰くこれで良いんだそうですよ?『大人可愛いシフォンはオフィス受け抜群。ヘルシーな色気は肩チラ見せで』と仰ってました。」


「その意味、わかってないでしょ」


「はい、私にとっては呪文のような解説文ですが、オフィスに向くとのことなので。」


「却下だ。肩を出すのは仕事向きじゃない」


そう言う宗一郎さんはスーツすら着てない。白いシャツと明るいグレーのズボンは爽やかだけど、宗一郎さんの方が仕事向きとは言えないのでは……。


「うちの会社はカジュアルOKだから、外出がない限り俺はこれでいいんだ。

理緒はこっちに着替えて」


クローゼットの中で一番丈の長いスカートと、フワフワのニットを手渡される。「さすがに暑そうです」と反論すると、渋々といった様子でアンサンブルニットに変更された。


「その服なら許容範囲」


宗一郎さんのセンスにかかると、店員さんのお勧めでもダサく感じるのかもしれない。それにしても随分と厚着の服を選ぶから、やっぱり宗一郎さんは寒がりなんだろうな。


「朝食はいつも外で食べてるんだけど、理緒も行く?」


はい、と元気よく返事をした後で気が付いた。普通は結婚といえば女の人が料理を作るものなのでは……?いい奥さんって、旦那さんより先に起きてオムレツとかを作ってるイメージだ。



でも残念なことに、私はここに来てから1度だって料理してない。昨日も引っ越しやプログラミング教室の合間に外食だった。普段からマメに料理する方ではないので、今までその発想が無かったのが悲しい。


疑似的な妻のくせに、何の役にも立たないなんて最悪だ。


「私としたことが料理も作らずにすみません……!

美味しくないかもしれないけど、今後はご飯くらい作りますから!!」


「いや別にいいけど……仕事が忙しいんだから、家でまで無理するな。」


「でもそれじゃあんまりですよ。料理じゃないなら、掃除しましょうか?お洗濯は私が勝手にしても良いんですか?」


「週に2回ハウスキーピングが入るから困ってない。そもそも家事を望んで同居したわけじゃないから。」


諭すように言われて、結局朝食を食べにカフェについていく。野菜たっぷりのスープと焼き立てのパンが朝の体に優しい。


「せめて何かのお役に立たないと私がいる意味が……」


「その考えは理緒の悪い癖だ。役に立つとか立たないとかどうでもいい。」


真顔で叱られると迫力がある。思わず「はい」とうなずくと、宗一郎さんの言葉が続いた。

「仕事が無いと落ち着かないなら、理緒の役割を言うよ。

朝と寝る前のキス、夜は俺の腕の中で眠ること。それから土曜日はできるだけ一緒に過ごすように。わかった?」
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