秘密の会議は土曜日に
「閣下……!わたくしとしたことが、まま誠に申し訳もございませぬ。」


「ぶっ……。田中さんって会議室を出ると途端に侍みたいな喋り方になるんですね。

さっきまで立て板に水のように普通に話してたのに。」


閣下はおかしそうに吹き出したけれど、私は仕事以外の異性とのコミュニケーションがとれないのでどうしてもこうなってしまうのだ。


「こ、こちらっ。先日お借りした着替えのシャツでごさりまする。先程はお渡しするのを忘れてしまい、大変失礼をばっ」


クリーニング済みのワイシャツを閣下に手渡すと、エントランスの空気が一瞬ざわっと揺れたような気がした。


「ああ、わざわざすみません。クリーニングまでしてくれて。

くくっ。それに『失礼をば』ってまた聞けると思わなかった。」


「いえあのっ。本来であれば私の汗にまみれた寝具類も洗濯の上お返しせねばならぬところ、先日は気が利かずに申し訳ございませんでしたっ!」


今度は何故かその場の空気が水を打ったように、しいーんと静まり返る。


「はははっ……。駄目だ、腹痛い。

誤解しか生まないその表現力。田中さんってやっぱりいつも俺の想像を裏切ってくれる人ですねー。」


「裏切りでありますか……?」


閣下の何を裏切ってしまったのか考えたけれど分からない。私の話し方が変わったというけれど、閣下の一人称も「私」から「俺」に変わってる。


「全く想像つかないし、一生懸命だし、ほっとけないし。

俺、田中さんのこと好きですよ。」
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