秘密の会議は土曜日に

8 オンタイムは別の顔

鴻上くんに呆れられながら喉につかえたケーキを飲み込んで、さらにシャンパンで流し込んだ。


そのせいか翌日は酷い胃もたれで、フラフラしながらエヴァーグリーン本社に足を踏み入れる。何度見ても綺麗で豪華な本社だ。エントランスに流れる爽やかな風が淀んだ体に染みる。


今日はワンピースにロングカーデ……という名称はお店で教わったばかりだけど、その組み合わせで出勤している。


ワンピースは落ち着いたグレーの膝丈で、ニットはオフホワイトのフワフワとした生地。共布のベルトが付いているけど、止めずに着るのが正解だというから洋服の世界は訳が分からない。


ワンピースの太股にデザインされたスリットがかなり深いので、歩くとスースーした。これを私が着て変じゃないだろうか……。


そわそわと落ち着かない気持ちでいると、喧騒に紛れて閣下のお噂が聞こえてくる。


「高柳さん、また粛正始めたってよ。もう滅多切り!」


「マジで?やっぱ鬼畜だな。高柳さんに切られた人、これで何人目よ?あんな顔してやること怖すぎね?」


「いや顔は関係ないだろー。」



……なんと。



昨日の鴻上くんから聞いた話もそうだけど、私の知る閣下とエヴァーグリーン内で噂される閣下はかなり印象が違っている。


閣下はたまに意地悪なこと言うこともあるけど、基本的にとてもお優しいのに。何故そんな物騒な事を言われてるんだろう。




「オハヨ!」

「タッカヤナギサン!」


ほら、エントランスにいるオウムのキューちゃんも、閣下を慕って今日も挨拶している。


「タッカヤナギサン! ……ヤラレル!」



……え?

キューちゃん、今なんと?


「タッカヤナギサン! ヤラレル!」


キューちゃんは律儀に同じ言葉を繰り返すので、私の頭は混乱を極めた。


高柳さん……人を切る……滅多切り?

ヤラレル?


キューちゃんが自発的にヤラレルと言う筈はない。


そうするとこれは、閣下に切られた人の悲鳴をキューちゃんが偶然聞いて、記憶しちゃったんだろうか!?




閣下:『仕事のできないこのクズめ!粛正してやるー!!』

社員:『ギャー!切らないで!タッカヤナギさん!』

閣下:『フハハ滅多切りじゃ!』

社員:『タッカヤナギさん!ヤラレルー!!』

キューちゃん:『……ヤラ……レル?』


みたいな図を妄想して、ぞわーっと背筋が寒くなる。実は閣下に私の知らないそんな一面がある……とか?
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