キライ、じゃないよ。
「じゃあ、カートの上に準備していくね」


処置ベッドの横に粗方の準備をしていく。守川さんは説明を聞きながら丁寧にメモを取っている。記入の速度に気を遣い、あえてゆっくりと説明した。

緊急時だとそうもいかないけど、申し送りの内容では出血はとりあえず治っているし、バイタルも問題ないということだったから大丈夫だろう。

既に頭部CTの検査は終わっていて、出血や骨折は認めないとのことだった。

患者さんは20代男性で、頭部に4㎝の挫滅創があるらしい。

局所麻酔薬に注射器、外傷に必要な器具をあらかじめセットしてある外傷セット。

あとは縫合に必要な縫合糸と、消毒用の綿球。

それぞれの物品に抜けがないか確認しながらカートの上に並べていった。


「じゃあ、患者さんを処置ベッドに寝てもらいましょうか」


そこでようやく患者さんのカルテを再度チェックした。


「えーと、山近……え?」


電子カルテの名前を見て、一瞬固まってしまった。

山近 宏也、生年月日……読み進めていけば、ただの同姓同名ってわけじゃなさそうだ。

患者さんって、あの山近くんなの?

守川さんを引き連れて、外来処置室前に座っているはずの患者さんを迎えに行った。
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