キライ、じゃないよ。
「あの……」

「護ー!こっちおいでよ」


八田くんに向けて口を開いた直後、香から呼ばれた。

どうしたらいいか戸惑う私に八田くんはスマホを取り出して「連絡先聞いてもいい?」と聞いてきた。

素直に頷いてスマホの無料通話メールアプリを起動する。

八田くんのアドレスが入ったのを確認すると、「迷惑じゃなかったら連絡欲しい。ゆっくり話したいから」それだけいって他の男子達の所に行ってしまった。

私がなかなか来ないことで痺れを切らしたのだろう香がやってきて、惚けた私を突く。


「なにやってんの、樫が気にしてたよ」

「え?」


樫の名前が出て来た事で我に返り、樫がいる方を向く。

けれど樫はさっきのグループとは別の女子と楽しそうに話していて、こっちには背中を向けている。


「香の嘘つき。ヤツは他の女子侍らせてご機嫌じゃない」

「何言ってんの、さっきからチラチラ気にしてんの!一緒にいる子達にだって丸分かりで、彼女らの目怖くて引くよ」

「そ、そう?」


実際に私がそれを見たわけではないから、どう答えればいいのか分からない。

だけど、樫が本当に気にしてくれてたのなら……正直嬉しいって思う。

なんとなく気になって樫を見ていたら、樫も私の方を見て、そして慌てて目を逸らした。


「あ……、」

樫、と思わず呼びそうになって……だけどやめた。開きかけた唇を逆に噛む。

目を逸らされたことが辛い。

でも、当たり前だ……。

だって、樫は……私の事キライだもんね。

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