キライ、じゃないよ。
高校と聞いて、俺の頭に咄嗟に浮かぶのは友人の山近と……もう1人いる。

「樫、」

俺を呼ぶ柔らかな声音。

あの時までは、いつだって、はにかみながら笑う彼女の笑顔は俺にまっすぐ向けられていた。

あの時までは。


『樫?おーい、樫ってばよ。聞いてんのかぁっ!』


反応がない携帯に、ひたすら怒鳴っているという様子の山近の声に我に返った。


「あ?あぁ、悪い」

『なんだよ、もう……あ、もしかして仕事か?俺切ったほうがいい?』


仕事の携帯にかけている事を思い出したのか、途端気遣う声音は自然と小さくなる。


「いや、大丈夫……今夜こっちから掛け直す」

『そうしてくれ。俺もそろそろ休憩終わるから戻るわ』

「ああ。山近連絡サンキュ」

『別にいいよ。そっちの連絡先教えてくれてる特別待遇に免じてな』


山近との電話を終えた途端、自然とため息が溢れた。

携帯を握りしめていた掌が赤くなっている。

緊張していたんだろうか?全身が強張っている気がして頭を軽く振った。

高校の同窓会……か。

来る、だろうか?

最後に顔を見たのは高校の卒業式だった。

「樫、バイバイ」

そう言って手を振ってくれた。けれどその表情はどこか素っ気なくて、それまでずっと一緒だった時に見ていた笑顔は見せてくれなかった。

最後なのに……。

そうだ。

最後だったのに、俺はもしかしたらアイツを傷つけてしまったのかもしれない。

言うつもりのなかった言葉で。

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