キライ、じゃないよ。
『宏也がね、たまたま近くにいたみたいで。付き合ってくれたの』


宏也、と呼ぶその声はなんだか少し気恥ずかしさが混じっているようだ。

あの同窓会の翌日、よりが戻ったとメールが届いた時には素直に喜んだけど、さらにその翌週には結婚を決めたと報告して来た時は正直驚きのあまり言葉にならなかった。

まぁ、幸せそうな香の顔を見たら、自分のことのように嬉しかったけど。


「頼りになる旦那サマで良かったわね」

『ま、まだ旦那じゃないけどねっ』

「そうだったわね。なんにせよ良かったじゃない」

『うん。まぁ、ね。ところで護の方はどうなの?』


急に振られた言葉の意味が分からず「は?」と間抜けな声が漏れた。


『樫くんから連絡あった?』


樫の名前が出て来て、気持ちテンションが下がる。

私がなにも言わないことで分かったのか、スマホの向こうで小さな溜息が聞こえた。


『護から連絡取れば?』

「えっ?嫌だよ。連絡先教えて、連絡がこないってことが答えじゃない」

『なによ、答えって』

「だから、私に連絡取る気がないってことでしょう?そもそも嫌いな相手に連絡してくるわけないじゃない」


言葉にして地味に凹む。分かっていたけれど口にしてしまうと更に追い討ちをかけるみたいに思い知らされる。



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