キライ、じゃないよ。
「……落ち着いたか?」


田淵が落ち着くのを待って、近くの喫茶店に入った。

明るい所に入ったことで身なりが気になったのか、田淵は化粧室に行って、出て来たときには乱れていた髪や泣き腫らした顔も幾分マシになっていた。


「うん……ありがとう樫くん。来てくれて嬉しかった」


頼んだココアを口に付け、ゆっくり息を吐く田淵を見る。


「何があったか聞いてもいいか?」


さっきの田淵の様子から、怖い思いをしたのかもしれないと予測はできる。

けれど話すことで、その怖さを思い出させるのは、気が進まなかった。


「……」


黙ったままの田淵にそれ以上問い詰めることはできなかった。

15分位経っただろうか、俺のスマホに原川から着信が入った。


『樫⁉︎今どこ?』

「原川が言ってた場所の近くの喫茶店だよ。えぇと、店の名前は……」


テーブルの上のナフキンを取り、印字された店の名前を読んだ。

原川は今から行くとだけ言って電話を切った。

目の前の田淵がホッとした様子を見せたが、今回のことに原川も関係があるんだろうか?

それから原川が店に来るまで田淵は何も喋らなかった。

俺から視線を逸らし、不安げな様子で外を気にしていた。







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