優しいあなたの嘘の法則

優しいあなたの嘘の法則




見慣れた本屋の入口をくぐると、まばらな人影の中に見慣れた綺麗な黒髪が見えた。ワイシャツに「二宮」という名札をつけたその人は、入り口に立つ私を見た途端顔しかめた。

「なんで来んだよ」
「想くんじゃなくて一之瀬さんに会いに来たんだよ」
「あ!実希ちゃん」
「一之瀬さん!こんにちは!」

表情も言葉も刺々しいのは、おなじみ想くんである。
しかめっ面の想くんと話していると、一之瀬さんが走ってやってきた。きょうも爽やかな笑顔をふりまく一之瀬さんは、想くんとは大違いである。

想くんは一之瀬さんが来るのを確認すると、持ち場に戻っていった。私はそんな想くんの後ろ姿を見つめる。レジで対応する想くん相手に、お客さんの女の人は顔を赤らめていた。

店内を見回すとお客さんは女の人ばかりで、その中には想くんや一之瀬さん目当てで来ている人がたくさんいるのだろうと思った。


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