ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「これから結婚するって人に水差しちゃダメでしょうが! あんなのデタラメですよ」

「はっ、そうよね! 昨日あの女優がテレビに出てたからつい……」


聞き耳を立てなくても聞こえてくる話し声に、私は口の端を引きつらせた。ふたりとも悪気はなさそうだし天然だな、これは。

それより、水を差すだとか女優だとか、いったいなんのことだろう。水岡さんが止めたことからして、私にとってあまり良くない内容なのかなと想像はつくけれど……。

考え込む私のもとに戻ってきたふたりは、あっはっはと大袈裟に笑ってみせる。


「ごめんね初音ちゃん、気にしないで!」

「今のは大石さんのイミフな妄想発言だから」

「はぁ……」


あからさまに明るいふたりを怪訝に思いながらも、曖昧に笑って頷いておいた。

一応ふたりとも私に気を遣ってくれているみたいだし、もっと仲を深められたらなにげなく聞いてみようかな。

そのすぐあとにお客様がやってきたため話を中断し、今までの騒々しさから打って変わって、大石さんも水岡さんも一流のショップらしく品良く接客していた。その切り替えっぷりには感心する。

私も少しでも仕事を覚えようと、初めての業務を必死にこなしているうちに、“あの噂”の件はすっかり頭から抜けていたのだった。




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