アイタイ!
アイタイ!
 黛 由真(まゆずみ ゆま)は、毎朝走る。
 走らないと気分が落ち着かない。身体がむずむずする。
 職場近くに借りた部屋から職場まで、車で十分ほどの距離を、毎朝走って向かう。
 車通勤が多い為、駐車場が混雑するのがイヤだということもあるが、もう一つ目的があった。

 朝の公園を、反対側から走ってくる一人の男。
 代ヶ根 藍(しろがね あい)。
 敵対組織のリーダーで、職務中であれば、まともに口も聞けないような相手だ。

 当初、二人は、朝、ランニングの最中にすれ違うだけの間柄だった。

 しかし、先日、状況が変わった。

「あ……あなた、もしかして」

 思いがけず言ってしまった言葉。
 それは相手も同様で……。

「君は……公園の」

 Sacred Beast Administrative Party略してSaBAP(サバップ)、(実はもっと奇天烈な名称があるのだが、由真はその名前を嫌っている)と、藍の所属する組織は長年の敵対関係にある。

 しかし、由真にとって『それ』は仕事上の事であって、プライベートには関係無い。ただ、いくら公私を分けるといっても、敵対組織の人間とおおっぴらに付き合うわけにはいかない。

 仲間に知られてはならない。
 由真も、藍も、自分の組織については語らない事がルールだ。

 職場の中間地点である、公園でのわずかな一時が、今のところ二人で会える数少ない時間だった。
 互いの姿が見えたところで、ゆっくりペースを落とし、由真は噴水の前で立ち止まる。
 藍も、同じようにして立ち止まった。

 二人共、わずかに息があがっているが、それは走ってきたからだ。

「おはよう」

 由真が言う。

「……おはよう」

 藍は、表情を変えずに言う。だから、由真もなるべくクールに振る舞いたいのだが、できない。

 互いに挨拶をして、そのまま立ち去ろうとした、時。

「あっ」

 藍が言った。

「はい?」

 わざととぼけてしまった事を後悔したくなるような表情を、藍はしていた。
 由真は背負ったリュックに手を入れて、包を取り出し、藍に押し付けて、答えを待たず、逃げるように走りだした。

 充分距離をとって、ちらりと振り返ると、藍は包を持ったまま、立ち去らずに突っ立っていた。ちょっとだけ、顔を見たい気分になりながら、由真はその場を立ち去った。
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