いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「でも、にいにが痛くて泣いてるよ」
「痛くて泣いてるんじゃないよ。きっとにいには、自分の弱さに泣いてるんだよ。にいにに聞いてごらん」
そういわれた勝子は、まだ座り込んでいる強に向いて「そうなの、にいに? 痛くないの?」と聞いた。
差し出した小さな手が強の腕を掴んだ。
幼い勝子を心配させ不安にさせた自分が情けなくて、強は道着の袖で涙をぬぐうと「痛くないし、泣いてなんかない」と嘘をついた。
それでもまだ心配そうな目をしている勝子を、後ろからじい様が愛おしそうに抱きしめた。
「勝子は勇敢ないい子だな。強、立て。お前、勝子に助けられてどうする。勝子はわしら家族が守っていかなきゃらんのだぞ」

このとき強はまだ勝子の父母がどうして死んでしまったのか、その本当の理由はきいていなかった。
ただ勝子がまだ3歳になる前に真田家に引き取られた時、父から勝子の両親は突然事故で死んだことを聞いた。
そしてそのことは勝子が大人になるまでは絶対に喋らないことを約束させられた。


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