青春の蒼い花
漆黒の花

嫉妬


「今日はレッスン8に進みます。教科書102ページを開いて下さい。」


浅井先生の授業が始まる。


私はノートを開いて、机の中から教科書探した。



たく兄の授業になってからは、英語の授業が楽しみで、予習を必ずするようになった。


それだけじゃない、

予習でわからないところがあるという口実で私の部屋で二人きりになる時間を楽しんでいる。



だから、予習を毎回頑張っているって言うのに…



なんで、なんで教科書がないの!!?



もう、…最悪。

あんなに頑張ったのに…



私は仕方なく、某隣人くんに頭を下げて教科書を見せてもらうことにした。


某隣人くんは文句を言いながらも机をくっつけて教科書を見せてくれる。


「なんだよ、また忘れたのか?」


「すまんな、毎度」


「まあ、俺もいえねえけど」



よく考えると、こいつと机をくっつけるのは毎度のことで、

もうお礼なんてお互い真面にしなくなった。


困っている時は助け合いってやつだよ。



机をくっつけ、前を向くと
たく兄と目が合った。



じっとこちらを見てくる。



教科書忘れたのバレちゃったかな?


でも、いいよね?
某隣人くんには許可とったよ?


そう心の中で言っても、

たく兄はこちらを見つめて近づいてくる。



そして、私の机の前で止まった。

チラッと私の隣の席を見る。


「白石さん、教科書忘れたの?」


私の方を向き直すなりそう言った。


「はい…」


コツン

何かが頭に当たった。

それはたく兄の軽く握られた拳だった。



それに気づくと



ドキドキと心臓が大きく音をたてはじめる。



「俺の授業面白くない?」




なんで、たく兄はこんなことしてくるのだろう?


私をからかってるの?


私は余裕なんてないのに…



「そんなこと…ないです。」


「じゃあ、前の日から楽しみにして、
準備してね。じゃないと、俺が自宅訪問しようかな。」



ドキンと何かが体の中を走った。



自宅訪問って…毎日一緒に暮らしてるじゃん。



やっぱり私をからかって楽しんでるんだ…



私はたく兄を睨みつけるが、

たく兄はにっこりと優しい笑顔で笑ってくる。



私はこの笑顔に弱い。


たく兄のバカ。


長い間たく兄に見つめられ、

私の顔はみるみるうちに真っ赤になってしまった。


クラスのみんなもその様子に気づいたのだろう。


少しざわざわしているような気がする。


そりゃあ、不自然だろう。


教科書忘れて友達に見せてもらっているだけなのに、なんでこんなに先生が食いついているのか不思議なはずだ。


これ以上、クラスの視線を集めて不審がられるのはごめんだ。


だけど、私は目の前にいるたく兄の目に魂を吸い取られたような気分でいる。



「え~、いいな~白石さん。
私も次の授業教科書忘れて来ようかな~」



そう言ったのはいつもたく兄の周りで騒いでいる麻生真由美だった。


彼女は私を助けたつもりはないと思うけど、


今回ばかりは、その言葉に救われた。



「おいおい」


たく兄はツッコミをいれながら私の席から離れていった。


ホッため息をついた。


やっと息ができる気分だった。



まだ顔が火照っている。


まさか、某隣人くんに何か察されたのではないかと隣を見ると、


某隣人くんは全くこちらの視線には気づかないで、じっと何かを食い入るように見ていた。


「高津…?」


私の呼びかけにも反応しない。


彼の視線を辿ると、そこにいたのはたく兄だった。




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