エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「いったい何があったんですか?」

「簡単に言えば後継者問題って奴だ。俺は父の会社を継ぐ気はなくて、産みの母親の仕事をする姿に憧れていた。母のような勇敢な弁護士になりたいと思っていたんだ。だから弟に会社を継いでもらうつもりでいたんだが、父はそれに猛反対し、血の繋がりのない悠斗には会社を継がせる気はないと言い放った。それを悠斗が偶然聞いてしまったんだ」

「……」

「それから悠斗は俺を避けるようになった。そのぎくしゃくした環境に耐えきれず、俺は家を出て自力で大学に通い、弁護士になった。だが後を継いで欲しかった父はそれを良く思っていない。君との結婚を機に父は俺が会社を継ぐ気になったと思っているらしいが、そのつもりはない。つまり東條家は今、心がバラバラなんだ」

寂しげに笑う東條さんの姿に胸がギュッと苦しくなった。

「いつかは悠斗と分かり合いたいと思っている。そして父を納得させて悠斗に会社を継いでもらいたい、と。そのために納得させる時間が欲しい。君との契約結婚はそのためでもあるんだ。俺を嫌う悠斗はもしかしたら明日、君に失礼な態度を取り、君に嫌な思いをさせてしまうかもしれない」

「私なら大丈夫ですよ。事情はわかりましたから。私にできることはないかもしれないですけれど、弟さんと仲直りができるように東條さんを支えますから」

私のその言葉に東條さんは「頼もしいな」そう言って安心したように微笑んだ。

私のその言葉に嘘はない。明日から例え偽りの夫婦になるとしても私を信頼して家族のことを話してくれた東條さんのことを支えたいと、心から思えたから。
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