守りたい人【完】(番外編完)
大きく息を吸って、空を見上げる。

どこまでも広がる広大な空を見ていると、自分の悩みがちっぽけなものに感じる。

そして、それと同時に母の言葉を思い出す。


『ここには何もないように見えるけど、本当に必要なもの全部揃ってるのよ』という言葉を。


確かに、ここには何もない。

コンビニも本屋も映画館も、お洒落なカフェも地下鉄も流行りの服も。

だけど、生きていく上で一番大切なものはそんなものじゃない。

それは人生を少しばかり『楽しく』するだけのもので、本当に必要なものではない。


本当に大切なものは他にある。

まだそれが何なのかはハッキリとは分からないけど、そうだと思える。

それは、ここにあるのだと思える。

今は。


「明日、焼き肉にしましょうか」


そう言って、勢いよく朝比奈さんの元に駆け寄る。

すると、そんな私を見て朝比奈さんは少しだけ不愛想な顔を緩めた。


「俺カルビ多めで」

「え~豚バラでしょ~」


ケラケラと笑いながら、懐中電灯の明かりの元、歩いていく。

頼りない灯りだけど、真っ暗闇の中ではそれが道標になる。

その灯りが正しいと思えば、私はもう迷う事なく前に進める。



進んだその先に、明るい未来があると信じて――。

< 100 / 456 >

この作品をシェア

pagetop