甘い脅迫生活
私の考えるお金持ちのイメージでは、ツボとかお気に入りの骨董品とか、家族写真とか、上品に置かれていると思っていた。
だけど。見事に何もない。
「こちらを。」
「っっ、」
すると耳元で突然、山田さんの美声が響いた。恐る恐る振り返ろうとしたら、至近距離に山田さんの素敵な顔が。
「スリッパを、履いてください。」
「……すいません。」
見事な和風美男に至近距離で命令されれば、謝罪という肯定が思わず出てしまうのは仕方のないことだ。イケメンってある意味暴力。
慌てて脱いだ靴。もうちょっといいやつを履いてくればよかった。今更な後悔をしつつも、靴箱らしきそれの前に揃えて置く。私に出された客用スリッパはベロア生地の明らか上等品。安売りで買った5足1000円の靴下で履くのが申し訳ないほどだ。
なぜか恐る恐るスリッパを履いて見上げれば、山田さんがこちらをジッと見ているのに気が付いた。
「……あの?」
首を傾げてみせても、山田さんはジッと私を見たままだ。なんだろう、イケメンにそんなに見つめられて平気でいられる免疫は私には備わってないんですが。