甘い脅迫生活




「今日は出勤何時ですか?」

「8時に山田が来る。」


薄い緑茶をすすりながら、社長は夢の中。


「寝ちゃだめですよ!」


少し大きな声を出せば、びっくりしたのか肩が跳ねた。


どうやらこれまでは、朝食も食べずに山田さんが迎えに来るまで眠りこけていたらしい。朝が弱い優雨らしい生活だ。


だけどどういうわけか、私が来てからは必ず朝起きるようになった。それがなんとなく、一緒にご飯を食べるためのような気がするのは、私の思い過ごしだろうか。


「いただきます。」

「……ます。」


ろれつの回っていない優雨はつぶやくと箸を取ってご飯を口に運ぶ。その間も一向に意識は覚めないらしく、頭は左右に揺れる。ほぼ寝てるな。苦笑いをしながらもなんだかこの時間が、とても大切なように思えて、嬉しい。



私と優雨の生活は、すれ違ってばかりだった。



事務員の私と社長の優雨。スケジュールが同じなわけがない。多忙な優雨は帰って来ない日すらあるわけで、家事を副業にしたとしても、それを雇い主に発揮できる機会はあまりにも少ない。



昨日のように待っていれば夜中に会えることもあるけど、普段は先に寝てしまう。



だから会えるとしたら朝食の時だけ。朝起きてから出勤するまでの2時間だけだった。



それをなんとなく寂しいと感じてしまうほどには、私はこの案外可愛らしい絶対的王様にほだされてしまっているらしい。



信じたくはないけれど。




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