甘い脅迫生活






困らない程度にお金があって、おはよう、お帰り、おやすみなさい、普通の挨拶が毎日し合える関係。

目の前の人はそれを叶えることができる人なのかもしれない。だけどそれでも反発してしまうのは、あまりにも突然の出会いだったからだろう。



……きっと、脅迫もなく、この人に出会っていたなら、私は淡い恋心を抱いたのかもしれない。


それほど社長は素敵な人だ。


だけどそれはあくまで、仮定の話。もし社長に恋心を抱いたとしてもきっとそれは、上手くいかずに捨てられてしまっていただろう。



やっぱり今考えてもおかしい。


西園寺フードの社長と私なんて。



少女漫画にしても、あまりにもお粗末な設定だ。



「乗って。」



社長がわざわざ私の腰に手を当てて道を開けてくれる。女性慣れしている洗礼されたエスコートに、やっぱりとは思う。


結婚したとして……している、としてこの人は私だけを愛してくれるだろうか?


その疑問に答えるには、あまりにもこの人を知らなさ過ぎて、明るい未来なんて予想すらできない。



無言で車に乗り込んだ私は、自分が置かれている立場を理解しようと必死だった。




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