君が好きなんて一生言わない。

いわない言葉

穏やかなバーミリオンの光が差し込む放課後、人のいなくなった廊下。

廊下を曲がった先にいた見知った人物に声をかけようと思ったけど、やめた。


「麗ちゃんのことが好きだ。付き合ってくれないか?」


ユズは告白していた。

その相手は、麗ちゃん。


俺は思わず後戻りをして隠れた。


…知っていた、ユズが麗ちゃんのことが好きなこと。

「煮え切らねー態度してんなら、俺がもらう」と、ユズは俺に宣言してたし。

本当につくづくかっこいいやつだ。

親友と同じひとを好きになったのに、正々堂々と真っ向勝負を仕掛けてくる。


そういうところがバカで、でもあいつのいいところ。


バカだけどいいやつなんだ、あいつ。

阿呆だけど、他人のことを考えられるし一生懸命になれる。


きっと一緒にいたら幸せになれる。

きっと麗も幸せになれる。


…だけど。


心臓は痛いくらいに心拍して、今すぐ駆け出したい衝動でどうしようもない。


…なんで、こんな気持ちになるんだ。

あの時俺は決めたのに。

俺は、麗ちゃんが幸せになれるために生きると。

そう、あの日からずっと決めているのに。


どうして、こんなに感情が暴れる?


「ユズ先輩…私…」


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