バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「父はステレオタイプの人間じゃないんだ。発想が柔軟で、常識にまったく囚われない人だからこそ、世界的にここまで業績を伸ばせた」

 これまで同業者たちが食い込めなかったような国でも、ボヌシャンス迎賓館の戦略が成功しているのは、そんな社長の価値観の多様さのおかげ、ということか。

 カリスマと呼ばれる人には少し変わった人が多いらしいけど、社長もそういうタイプなのかもしれない。

「俺は父を心から尊敬している。ただ、やたらと見合い話を勧めてくるのには困っているが」

 副社長はフッと息を吐き、長い足を優雅に組みながら苦笑いをした。

「父は結婚が遅かったんだ。実はもう七十なんだよ。最近、友人が続けざまに病気で亡くなって、不安に陥ったらしい。急に孫の顔が見たいと騒ぎ出したんだ」

 それで持ってきた縁談が、よりによって大宮様? もうちょっと他にいい話があったろうに。

「俺としては父はまだまだ死なないと信じているし、今は結婚なんて考えられない。現場も役員としての仕事も、面白くて仕方ないんだ」

 身を乗り出すようにして語る副社長の目が、光の反射した水面のようにキラキラ輝いている。
< 38 / 206 >

この作品をシェア

pagetop