バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 そう言う私を貴明は見ようともせず、床に額を擦りつけながら、ひたすら身を固くしている。

 まるで時が止まったような異様な沈黙が流れる室内に、階下から私を呼ぶお母さんの、のんびりした声が響いた。

「亜寿佳ー、貴明君にお茶淹れたから取りに来てー」

「…………」

「ちょっと亜寿佳ー。聞こえてるのー?」

「……は、い」

 無意識に返事をして立ち上がり、フラフラと部屋から出ようとする私に、やっと顔を上げた貴明が叫んだ。

「亜寿佳、どうか話を聞いてくれ!」

 切羽詰まった彼の声を聞きながら、私は夢遊病者のような覚束ない足取りで部屋を出て、後ろ手にドアを閉める。

 そしてそのままズルズルと廊下に座り込み、両目と口を大きく開いたまま、宙を眺めてひとつのことばかりを繰り返し考え続けていた。


 明日は、私の、結婚式。

 幼い頃から夢に見続けた、待ちに待った、私の結婚式だ……。





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