颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
*―*―*
マンションに帰るとリビングもキッチンも真っ暗だった。失恋洋楽BGMもかかっておらず、シンと静まり返っている。光の届かない深海に迷い込んだみたいだ。ちょっと不気味だけど、窓に広がる夜景がきれいで明かりをつけるのがもったいなくて、そのままシャワーを浴びることにした。
明かりをつけなくても浴室に入れるまでに慣れてしまった部屋。いつまでここに住めるだろう。
バスタオルを巻いて部屋にもどろうとした。リビングに出た瞬間、どん、と鼻をぶつけた。
「いたたたた……」
こんなところに壁とかあったかな、なんて思っていると、その壁は動いた。
よく目を凝らすと、それは壁ではなく桐生颯悟だった。濃紺のジャケットに黒っぽいシャツで暗闇と同化していた。
「みのりいたの? 明かりもつけないで、なに。ちょっ……」
「お帰りなさい。先にお風呂もらいました。お湯も張っておいたので颯悟さん……」
「もう、いいから!」
「いいって、なにが?」
「視覚テロ? そんな格好で……」
「テロ? あっ、お目汚しでしたね。スミマセン。谷間のないバスタオル姿で。え、あのぅ……きゃあっ!」
ジリジリと壁に寄せられ、桐生颯悟の腕が耳の脇をかすめた。ドン! しかも両手で。
薄暗さに目が慣れてくる。桐生颯悟は眉をしかめて、あきれているというよりは怒っているようだった。
私がなにをしたというの。そんなにヒドい視覚テロだったとか?