嘘だらけの秘密

上司が発狂した翌日も、戸波さんは居なかった。

戸波さんの顔が見れず癒しがないと思いながら
関わりたくない上司と必死に最低限の会話をして、1日を過ごした。

ただただ苦しかった。

仕事しなければいけないのに、もう限界で、上司を軽蔑する直前で、胸がいたかった。

恥ずかしさと悲しさと怒りがごちゃ混ぜになって、口調がいつになく強いのが自覚できるほどだった。


無理もない、と自分に言い聞かせようとしたけど無理やった。

嫌いになりそうで、ますます話したくなくて、
けど部下やから上司の仕事を助けなければならないし、誰かが悪く言ったらいい所もあるんですよ、と助けるのが仕事やと思っていたから

上司に対して冷たくする自分が嫌で嫌で仕方なかった。

上司と会話するたびに尊敬という柱が崩れていくのを感じた。

このままやったら、完全に嫌いになってしまう。そう思って怖かった。



そんな思いを抱えて2~3日過ごして、悩んでいた。

そのタイミングで、倉庫で戸波さんと出くわした。

戸波さんとちゃんと話すのは、発狂事件以来初めてやった。

戸波さんはわたしに気づいた瞬間、いつものようににっこりして、おつかれー、と言った。

わたしも咄嗟に笑顔を作り、お疲れ様です、と言ったつもりでいたけれど。

戸波さんには見抜かれていて、
どうしたん?なんか元気ない?と言われた。

何がですか、と言ってみたものの、あれ以来社内で気遣ってくれる人もおらんかった中、
そんなに毎日顔を合わせよる関係でもないのになぜあなたは気づいてしまうん?と思ったらもう泣きそうで。

関係ないと知りつつも、戸波さんに聞いてほしいと思ってしまって。


相談に、乗ってください。


気づいたら口がそう動いていた。

戸波さんは最初ふざけて、えー?なんの話ー?恋バナー?と言ってから、
わたしがちょっと笑うのをみて、

今は我慢してや?泣かんとって。明日おるよな?と真面目な顔をした。


戸波さん、あなたのそういうとこが好きです。

そう思ったら本当に泣いてしまいそうやった。
さすがに倉庫で、人の目があるとこで泣くわけにもいかんので、
唇を噛み締めて堪えた。

戸波さんはわたしの顔真似をしてわたしを見ていた。


明日います、とわたしが言うと

明日俺もおるからさ。午前中ゆっくり聞くから。泣いていいから。それまで我慢しとって。

と戸波さんは言った。

優しい、嬉しい、やっぱすき、戸波さんならこういう反応してくれると思ってた。

そんな気持ちで胸が締め付けられるようで、ますます泣きそうやったから、


ありがとうございます、戸波さんを見込んでのお願いやから。よろしくお願いします。

そう呟いて、わたしは走り去った。
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