嘘だらけの秘密


会いたいなぁ。

やけど、ほんまに会えるんかなあ。


そんなことばかりで頭を埋めながら必死に仕事をした。

19時。


会社も閉める閉める詐欺をする時間になり、

閉めるからなー、分かってまーす、という
お決まりのやり取りの中皆さんが残業をしている。

そうはいってもわたしは新入生。
まだ1年目やから、そんなに遅くまでいると目立ってしまう。

19時5分。のんびりと片付けをして、席を離れた。
さらにのんびりと更衣室でコートを着て、身支度を整え、デスクに荷物を取りにもどる。


戸波さんは居なかった。

あれ?どうするつもりなんかな?


不思議に思いながら外に出た。

駐輪場でチャリを出そうと頑張っていたら、
どこからともなく戸波さんが現れた。




帰るん?


かえります。


駅行く?



チャリ置かなあかんから。行きます。



やったら駅行っとくわ。



こないだ降ろしてくれはったとこに居てください。駅裏の方。


分かった。あとでねー。




いつもの駅までの道が嘘のように早かった。

このままチャリを走らせれば、その先に戸波さんが待っているなんて。

わたしから頼んだわけでもないのに、駅で待っとってくれるなんて。


戸波さんと付き合ってるんやなぁ、と。

しみじみ嬉しくなってしまったり。


寒いのに、全然寒さに気が回らんほどに胸が高鳴っていた。

チャリをいつもの2倍近くの速さで漕いで、急いで鍵をかけて、ロータリーに向かった。

19時まで働いたとは思えんくらい身体が軽かった。




まだあまり戸波さんのクルマを覚えていなかったので、フラフラしていたらヘッドライトがパカパカする車があった。


……戸波さんだ。

馬鹿な虫みたいに光に吸い寄せられていった。


運転席に戸波さんがいる。
…手招きする戸波さん。

いつになく優しい笑顔。
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