嘘だらけの秘密






その週は毎日のように会った。



その次の週も、ほとんど会っていた。


そして、初めてのデート。



会社指定の休みやけど平日で、奥さんは休みてことを知らんから会えるって。


むちゃくちゃ楽しみにしとって、色々行くところを考えていた。

朝比較的はやく、9時頃、戸波さんがわたしの家に迎えにきた。


大分早かったから、朝ごはんを食べる?と誘って、戸波さんを部屋に上げた。







それがまずかった。




大変に運の悪いことに、婚約者と出くわす始末になった。

平日やからこっち来てるなんて絶対にないと思っていたのに、ガチャガチャドアノブが回って、りりちゃん、居るんでしょ?!

と叫ばれた時のことを思い出すと今でも背筋が凍る。


結論から言うと、免許の更新と、置きっぱなしやった公的機関用の書類とかを出張がてら取りに来たということやった。


やましい気持ちが無いわけじゃなかったから内鍵をかっていたら、強盗が押し入ってるとかいう名目で警察を呼ばれた。



怖かった。

なにもまだしていなかったし、部屋で触れてすらおらんかったけど、悪いことをしてるという自覚だけはあったから、ほんまに怖かった。


内鍵を壊して、警察が乗り込んできた。

もう今となっては、その時パニックになり過ぎていて詳細をあまり覚えてないけど、とんでもない騒ぎというか、修羅場というか、とにかく大変やった。


戸波さんは、わたしが朝ごはんをつくる間PCを開いて仕事をしていて、
警察と婚約者が来た時もPCにむかっていたから、警察も半ば呆れていたけど

婚約者は随分とご立腹で、わたしを締め出した。半泣きで怒鳴り散らして、わたしを揺さぶったり殴り掛からんばかりの剣幕だった。

警察になんども、貴方が傷害罪になりますよとかDVで訴えられますよとか言われて羽交い締めにされ、ようやく体裁を保とうとし始めたくらいには、取り乱していた。


帰ってくるな。鍵も置いていけ。

そう言われ、最低限の出掛ける格好を整えるまで圧力をかけられながらわたしは家を出た。


戸波さんは警察から軽く話を聞かれて帰された。

鍵の代金とかを請求しますから、と言って婚約者は戸波さんの住所を無理矢理聞いた。
免許と照合していたから、戸波さんは嘘は言えへんかったと思う。


わたしは家を追い出されたのだから、戸波さんを追いかけた。


戸波さんは困ったような顔をしてわたしを見たけど、乗り、と言って車に乗り込んだ。



戸波さんと2時間くらい車で適当に走り回っていた。



馬鹿なわたしは、戸波さんとの貴重なデートがおしゃかになったことを悲しんでいた。

頭が悪いわたしは、婚約者を失ったことに涙のひとつも流さなかった。
婚約者が怒っていることよりも、家に入れて貰えないこと、ただそれだけを心配していた。


なにより、戸波さんが「面倒な女を拾ってしまった」、と嫌気が差して、もう終わりにしようなどと言い始めないかを心配していた。


実際まだ抱かれていなかったし、やめておけという誰かの道しるべなのではないか、などと考えたらどうしようなんて考えていた。


このまま終わりなんて言わないで。



初めてのデートやったのに。



婚約者が怒り狂っていても泣けもしなかったし、冷めた頭でうわー怖い、くらいにしか思えもせんかったのに、

なにも言わない戸波さんを見ていたら泣き崩れそうだった。


心底バカな女だと我ながら痛感した。
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