ガラスの境界、丘の向こう
「エマ様たちに用事を申しつけられたのです」と、グラディスと呼ばれたメイドの女の子は答えた。

「私たちがここにいたこと、エマに言わないでね、絶対よ。立ち聞きしたって誤解されちゃう」、ジュリアはグラディスに頼んだ。

「もちろんです」、青い顔をしたグラディスは弱々しげに微笑んだ。

 ジュリアは眞奈に手招きした。
「マナ、村の子どもがこんなところでエマに見つかったら大変だわ。早く逃げなきゃ!」

 そして、グラディスに向かって聞いた。
「ウィストウハウスから外に出る簡単な方法ってどういうのだったかしら? 屋敷に慣れていない村の子でも迷わない行き方よ。マナに教えてあげたいの。ほら前に男の子が迷い込んだとき、あなたが教えてあげたじゃない」

「ああ、そうでしたね」、グラディスは思い出したようだった。

 彼女は眞奈に聞いた。
「カメリアハウスはご存じですか? 椿を栽培している園芸館ですけど……」

 運のいいことにカメリアハウスは眞奈の時代にもちゃんと残っていた。

 その建物は石造りの園芸館で、独立型コンサバトリーともいうべきか、日差しを効果的に取り込むようふんだんに窓があしらわれている建物だった。
 眞奈の時代では、理科の授業で生徒たちが育てた観察用の植物が雑多に並べられている。なるほど、ジュリアの時代では建物の名前どおり、椿が栽培されているらしい。

 グラディスは指さした。
「あそこの窓からカメリアハウスが見えますよね?」

 眞奈は言われるまでカメリアハウスだと気がつかなかったが、よく見ると間違いなくカメリアハウスであった。
 でも、屋根の部分だけは現代のものとちょっとだけ違っているみたいだ。だからぱっと見でわからなかったのだろう。

 グラディスは続けた。
「カメリアハウスをずっと左に見ながら窓づたいに一階を目指してみてください。窓は三回途切れます。一回目と二回目は通路を曲がるとき。最後は窓のない階段通路の中です。そうしたら出口がありますから」

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