浮気の定理-Answer-
BARにて④

その男が店に入ってきた時、すぐにあのときの客だと思い出した。


以前に来たときには二人連れで、確かこの男は既婚者の方だったと思う。


もう一人の男に自分の妻を好きにしろと、詰め寄っていたヤツだ。


接客業だということを忘れて、思わず顔をしかめてしまう。


それをなんとか取り繕って、いらっしゃいませと営業スマイルを作った。


あの日、カウンターの隅でコソコソと商談でもするかのように妻を売っていたこの男の顔を、忘れるはずもない。


同じカウンターの端の席に腰をおろした男は、以前に見たときよりも、ずいぶん疲れているように見えた。


男は強い酒をストレートで頼み、グイッと一気に飲み干す。


カタンとグラスを置くと、ふぅ……と大きく息を吐いた。


なんとなく、男の様子から、あのときの計画が失敗したんじゃないかと思った。


だとしたら、この男には悪いが良かったと思う。


自分の勘が当たってることを信じながら、目の前のグラスをキュッと磨いた。


同じのをもう一杯、と虚ろな目で言った男の酒を作っていると、着信を告げる音が耳に入った。

< 129 / 350 >

この作品をシェア

pagetop