浮気の定理-Answer-
ときどき、スマホを眺めながらなにか返信しているようだったけれど、その顔はどうにも冴えない。



「おかわり」



そう言った男性を抑えるように、隣に座る同じ作業着姿の若い男性がグラスを取り上げた。



「呑みすぎっすよ」



「いいから、寄越せ!」



二人の関係は職場の先輩後輩といったところか。


話の内容は先輩の方の男性の妻が浮気してるかもしれないというようなものだった。


BARに来る客でこの手の話で荒れているのは、珍しいことじゃない。


けれど、たいていは男が浮気していて妻にばれそうだという類いのものの方が圧倒的に多いのだ。


グラスを磨きながら、そっと聞き耳を立てる。


男性の口振りから、奥さんのことが大切なんだってことがひしひしと伝わってきた。


早く修復するといいなと、柄にもなく思う。


夫婦の関係は強いようで脆いものだ。


少しの綻びから、修復不可能なところにまでズタズタになることはよくある。


それはここで働くようになって、客から何度も見聞きして知った事実。


けれど、他の客とは少しタイプの違うこの男性には、なんとなく元サヤに収まってほしくて、心の中でそっとエールを送った。

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