浮気の定理-Answer-
寝室のドアをそっと開けると、花の規則正しい寝息が聞こえてくる。


起こさないように近づいて、優しく髪を撫でた。


旅行の方が楽しいぞ?花?


声を出さないように唇だけで言葉を作ると、花はうーんと寝返りを打った。


寝室はダブルベッドにシングルベッドをくっつけた形で埋まっている。


花が落ちないように、シングルの方を壁につけていた。


普段は涼子が真ん中で、俺は端に寝るのだけれど、いつまで待っても涼子は現れなかった。


仕方なく真ん中に身を沈め、布団を手繰り寄せる。


目を瞑るとさっきの光景が思い出されて、俺は身震いした。


涼子のあの目は初めて見る目だった。


いつもは俺の様子を窺うだけの怯えたような色をさせているのに……


心臓の音がやけに大きく聞こえる。


明日になったら、いつもの生活に戻るといい。


そして土曜日には三人で温泉に出掛けるのだ。


家族水入らずで、ゆっくりと週末を過ごしたい。


そのために有給を取ったのだから……


言い知れぬ不安を打ち消して、俺はそう自分に言い聞かせると、花の寝顔をぼんやり眺めながらいつしか眠りについていた。

< 227 / 350 >

この作品をシェア

pagetop