浮気の定理-Answer-
見慣れた景色が窓の外を流れていく。


けれど、見慣れただけじゃない10年の時間の経過も感じさせていた。


俺はそれだけ長い間、ここを離れていたんだと実感させられる。


電車が駅のホームに到着すると、体が震えた。


帰ってきてはいけない場所に帰ってきてしまったという罪悪感みたいなものが、胸を圧迫して押しつぶされそうになる。


足が重い。


それでも降りなきゃと、少なすぎる荷物を手に取り出口へと向かう。


ゆっくりとホームに足を下ろすと、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。


目をつぶりゆっくりと息を吸い込む。


それからそっと目を開けて、改札へと向かった。


ピッとICカードをかざして改札を抜けると、目の前に見知った顔が見えて、思わず足を止める。


「康之……」


そう、声をかけられて息を呑んだ。


だってそこには……









「……父さん」


ずっと認められたかった。


こんな風に帰ってきた俺なんか、見向きもされないと思ってたのに……




「おかえり」




その瞬間、父の顔が歪んで見えなくなる。


ずっと我慢して溜まっていたんだろう涙が、後から後からとめどなく流れ落ちていった。


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