優しい雨 ~一年後の再会~
「……柚莉……」
「こんにちはー!」
 ガラッと勢いよく扉を開けて入ってきたのは垣内桜、たった3人しかいない、もうひとりの演劇部員である。
 彼女の出現にほっとして柚莉花は挨拶を返す。
「こんにちは」
「智博先輩、いたんだ」
「いちゃ悪いのかよ」
 チッと舌打ちして席を立ち扉に向かう途中、桜と一言小声で言葉を交わすとそのまま出て行った。
「…お邪魔でした?」
 智博の後ろ姿を無意識に見送っていたら桜の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「え? そんなことないよ」
 逆に助かったと言葉に出さず微笑して見せる。
 桜は智博のいた席に座り、
「私の役は“病気の女の子”なんですよね」
と、書きかけのシナリオを覗きこむ。
 元気がとりえの私とは正反対だわと呟いている。
 それでも文章を追う視線は真剣そのものだった。

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