たった一つの勘違いなら。
そして『会いに行ける王子様』とどこかで聞いたようなフレーズもあながち冗談ではない。

女性全般に等しく限りなく優しく声を掛けるそのイケメンな性格。しかも気に入った子には軽い誘いをかけてくるらしいという都市伝説じみた噂。

皆が憧れている。あの方の目に留まって、あの眼差しで口説かれたいと。




とはいっても、私はあいさつだけで十分。

そんな完ぺきで雲の上の人と同じエレベーターに乗り挨拶を交わせるという至福の時間が、統合ソリューション本部会議が開かれる月曜朝8時というわけだ。




そういえば、今朝、頬に触られた。

課長とカズくんのやり取りに完全に心を持っていかれていたけれど、あれは今振り返ってみればすごい出来事だった。

手の甲だったよね、と自分の右手を頬にあててみる。

「どしたの?」

「ん?なんか手の甲って気持ちいいよね。私の手冷たい?」

つるつるとした恵理花の頬にも、そのまま甲で触れてみる。なんか変な触り方だなぁ、これ。

冷たくて、男性にいきなり触られたという嫌悪感をまるで感じさせない温度だった。

ああ、配慮してくださっているのかも。あれはカズくんへのアピールであって、私が変に勘違いしてもややこしいだろうから。
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