たった一つの勘違いなら。


恵理花のいない恵理花の部屋で、レースのカーテン越しにぼんやりと移っていく日の光を感じて。

引っ越そうかなと思う。

あんな日の当たらない狭い部屋で縮こまって暮らしてるせいで、騙されちゃうんじゃないの、あんな素敵な部屋に住んでる人に。

庶民ぶって。

うどんとか、2人で鍋とか楽しそうに。

私が珍しく1人で作った料理をおいしいとただ食べてくれて。誰とも比べず、ただ嬉しいと。

どう言ったら喜ぶか全部知っているんでしょう。こんな真面目で面倒くさい私がなにに弱いかなんてすぐにわかったんでしょう。



嫌いになりたい。

嫌いなところを全部思い出して、罵りたいのに。

思い出すと全部今も、優しくて。


会いたくて。もう一度騙されたくて。




『気を付けないとこんな風になっちゃうよ。あれ以上の男性ってなかなかいないから』

そう警告したあの人を思い出す。なんにもない人。私と同じくらいなんでもない人。

活かせませんでした、その警告を。

なぜわざわざそんなこと言いに来たのか今ならわかる気がする。

消えないと思った傷を上書きした挙句、新しい傷を刺青みたいに焼き付けられる。

ほかの誰かを探して婚活することもきっと無理だと心と身体に刻みつけられる前に、私は手を引くべきだった。



真吾さん、あなたは自分が思ってるより果てしなく魅力的だということに、いいかげんにもう気づくべきです。



< 136 / 179 >

この作品をシェア

pagetop