たった一つの勘違いなら。
「真吾さんの過去の女性関係とかお見合いとか、そういうことで私が離れることはないですから安心してください」
……え? と小さく声が聞こえた。
「でももし西山さんとの関係も嘘だって言うなら、その時は私がいる必要ないですよね。そういう嘘なら話は別です」
からかうつもりでそう言ったら、意外にも眉を寄せて傷ついた顔をされた。
ああ、また迂闊な発言を。2人のことには口を出さないようにって思ってるのに、やっぱりそこは気になる。
「ごめんなさい、冗談です。おふたりのことは、その、こないだも通りかかってしまいましたし。でも社内では気をつけた方がいいと思います。あの階段声が通るんです」
「ああ、うん、気をつけるよ」
そう言った真吾さんは、しばらく天井を仰いだあと「煙草吸いたい」と突然言った。
「吸うんですか?」
「いや、10年くらい前かな。イライラしてた時とか」
今は何にイライラしているのか。話してくれたらいいと思ったけれど、聞くのは私の役目じゃないのだろう。
お見合いしてすぐ結婚ってこともあるんだろうか。こういうお育ちならやっぱり避けられないこととして、西山さんもそれを見送るのかな。