たった一つの勘違いなら。

「真吾さんの過去の女性関係とかお見合いとか、そういうことで私が離れることはないですから安心してください」

……え? と小さく声が聞こえた。

「でももし西山さんとの関係も嘘だって言うなら、その時は私がいる必要ないですよね。そういう嘘なら話は別です」

からかうつもりでそう言ったら、意外にも眉を寄せて傷ついた顔をされた。

ああ、また迂闊な発言を。2人のことには口を出さないようにって思ってるのに、やっぱりそこは気になる。

「ごめんなさい、冗談です。おふたりのことは、その、こないだも通りかかってしまいましたし。でも社内では気をつけた方がいいと思います。あの階段声が通るんです」

「ああ、うん、気をつけるよ」

そう言った真吾さんは、しばらく天井を仰いだあと「煙草吸いたい」と突然言った。

「吸うんですか?」

「いや、10年くらい前かな。イライラしてた時とか」

今は何にイライラしているのか。話してくれたらいいと思ったけれど、聞くのは私の役目じゃないのだろう。

お見合いしてすぐ結婚ってこともあるんだろうか。こういうお育ちならやっぱり避けられないこととして、西山さんもそれを見送るのかな。

< 74 / 179 >

この作品をシェア

pagetop