偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……麻生さまですね?青山さまより、伺っております」

エントランスを立ち塞ぐ巨大な自動ドアが、うぅぃーんと開いたと思ったら、そこにホテルのドアマンような制服を着たコンシェルジュが(かしず)いていた。王子さまのような雰囲気のイケメンである。

「麻生さま、お手伝いしますね」

彼は「お手伝い」するというより、スーツケースとキャリーバッグを二つともひょいっとポーターのように引き受けて、さっさとエレベーターまでがらごろしてくれる。

やってきた箱に稍が乗り、
「ありがとうございまし……」
と言いかけたら、彼も乗り込んできて、結局、青山の部屋の前までがらごろしてくれた。

稍は、とっても助かった、と思った。

「どうも……ありがとうございました」

特に、ややもすると気持ちがささくれ立ちそうになるこんなときは「やさしさ」が身にしみる。

「いえいえ、お役に立ててなによりです。
それではなにかございましたら、なんなりとご用命ください」

そう言って、コンシェルジュの彼は一礼して持ち場に戻って行った。

青山の部屋のインターフォンを押す。

『……入れ』

氷点下の応答があり、稍は玄関のドアを開ける。

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