偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

稍の母親の跡を追うように、智史の母親も結婚したが、彼女は仕事を辞めなかった。
「上」を目指したかったからだ。

その後、二人とも同じ年に子どもを授かった。
それが、稍と智史だ。

お互い子育てにかかりきりとなり、特に智史の母は仕事との両立もあって、しばらくは疎遠になった。

ところが、たまたま購入した建売住宅の並びにお互いの新しいマイホームがあり、思いがけず再会することになった。
二人の子どもが来年に小学校へ入学するという年であった。

山陽電車の沿線にあった、三宮まで十五分ほどのその新興住宅地は通勤通学に便利な上に、近くに市バスがアーケード内を走るという昔ながらの商店街があるにもかかわらず、神戸を本拠地とする大型スーパーも共存していて、子育て世代にとっては暮らしやすい人気の地域だった。
さらに須磨海岸へも気軽に行くことができる、風光明媚な土地でもあった。

だから、バブルが弾けた直後だとはいえ、かなりの競争率の抽選を経ないと手に入れることができない物件であった。

再会した二人が、手を取り合って喜び合ったのは言うまでもない。

稍の母親が、晩ごはんを一人で食べる智史を人一倍不憫に思って自宅へ招いたのには、そういう「背景」があったのだ。

< 282 / 606 >

この作品をシェア

pagetop